3話:(最終話)
中国とクレーン、そしてMAERSKの理念
(2008–2025)
最終話では、私が中国で過ごした18年間と、
MAERSKのグローバル港湾事業における挑戦、
そして54年間を通じて私の人生を導いてくれたMAERSKの価値観についてご紹介します。
= 本文 =
第3期(2008~2025)は、中国にてMAERSKの調達部門を立ち上げ、
特にこの6年間は世界70港に展開するコンテナクレーン製造に注力してきました。
この活動を通じて、日本・韓国との関係を維持しつつ、
中国の海事業界との新たな友好関係も築くことができました。
読者の中には「同じ会社に54年も?」と驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。
ですが、私にとっては日々が刺激に満ち、そして何よりMAERSKの価値観に支えられた旅でした。
- Constant care (常に気を配る姿勢)
- Humbleness (謙虚さ)
- Uprightness (誠実さ)
- Our Employees (社員を大切に)
- Our Name (社名に誇りを)
これらの価値観は、私の職業人生だけでなく、私生活においても指針であり続けました。
そしてその姿勢が、次の世代へのインスピレーションになればと願っています。
ありがとうございました。
(了)
第2話:グローバル造船ファミリーと
リンドー時代(1987年〜2005年)
1987年、マースク・マッキニー・モラー氏の要請により、
私はコペンハーゲンのオフィスから、デンマーク・フュン島にある
MAERSK所有の造船所「オーデンセ鉄工所(通称リンドー造船所)」へ異動しました。
そこで、調達・物流の責任者を務めることになったのです。
この造船所は1916年にモラー氏の父、A.P.モラーによって設立され、
2012年の閉鎖まで、マースク社の艦隊の大部分を建造・引き渡してきました。
この時期は、私のキャリアの中でも最も刺激的で、やりがいのある時間だったと言えるでしょう。
事業の拡大と成長の時代でありながら、同時に、アジアの造船所との厳しい競争のなかで、
ヨーロッパ造船業の生き残りを懸けた闘いの時代でもありました。
オーデンセ造船所では、この生存競争に打ち勝つために、以下の取り組みを進めました:
・近隣の低コスト国(バルト諸国)への生産能力の拡張
・デンマーク国内設備の近代化(ロボット化、CAD導入など)
・造船部品の国際調達市場の開拓
私は調達責任者として、これら3つの施策すべてに深く関わりました。
ここでは主に、2番目と3番目の取り組みに焦点を当てて述べます。
これらの取り組みを強力に推し進めるため、私たちは世界の造船業界の友人たちと緊密に協力してきました。
最初の協力は日本の日立造船との間で始まり、彼らのCAD(コンピューター支援設計)ツールをオーデンセに導入。
その後、日立製のロボットも生産ラインに導入しました。
この緊密な協力関係はさらに拡大し、韓国のサムスン重工業、
そして米国バージニア州のニューポート・ニューズ造船所とも連携を始めました。
この国際協力のテーマには、調達と部品供給市場の国際化も含まれました。
私たちはこのネットワークを「グローバル造船ファミリー」と呼びました。
このファミリーの一員として活動することで、
4か国の間にある共通点と違いについて、貴重な洞察を得ることができました。
中でも異質だったのは米国のニューポート・ニューズで、
彼らのコスト構造は他のメンバーとはかなり異なっていました。
なぜなら、彼らは長年、米海軍向けの艦船を中心に製造してきたため、
商船市場への進出においては「保護された環境」の延長で動いていたのです。
一方、サムスン重工とその他の韓国の造船企業は、この時期急速に成長し、
最新の造船技術を低コスト・高生産性・高品質と組み合わせることで、
ヨーロッパの造船業、そしてある程度は日本の造船業さえも凌駕していきました。
日立造船は、オーデンセにとって最も親しいパートナーのままでした。
設計品質も生産品質も、双方とも非常に高水準で、共通点も多く感じました。
しかし、それでもなお、オーデンセでの造船を続けるには力及ばず、
最終的には閉鎖に至ったのです。
現在も日本の造船業は、韓国や中国との競争のなかで生き残り、
独自のニッチ市場を維持していますが、ヨーロッパの造船業は、事実上ほぼ姿を消してしまいました。
そして今日、欧州各国では軍艦建造能力の不足が問題視されており、
これを悔やむ政治家たちの声も高まっています。
オーデンセでの船舶建造は2012年に終了しましたが、
今もなお、オーデンセ製の船はマースク艦隊に現役で残っており、
現場の乗組員たちは「オーデンセ船が最も品質が良かった」と今でも口にしてくれます。
それを聞くたびに思うのです――
「デンマークの造船を諦めるという判断の前に、
所有コストの総計(TOC)は本当に正しく計算されたのだろうか?」と。
(第3話へつづく)